人文系の大学院留学

…を目指して断念した人のつぶやき。

英文読解における文法・構文の重要性

TOEFL/IELTSの勉強や英語の論文を読んでいて、「文を構成している単語の意味は全部わかっているのに、文の意味がわからない」という経験はありませんか?私は大学受験の時、長い英文を理解するのがずっと苦手でした。今でこそ訳すのに困る英文に出会うことはほぼなくなりましたが、当時の私はわからなくなったらとりあえず前後の文脈から適当に推測して、オリジナルのストーリーを作り上げていました(笑)学部生の時にやっていた塾講師のアルバイトで大学受験をする高校生に2年間英語を教えていたことがあるのですが、彼らも高校生当時の私と同じ状態でした。この記事では、なぜ英語が文になると理解できなくなるのか、実際の英文をまじえて「訳す力」をどのように向上させるかを伝授します。

 

 

英文理解に必要なもの

私は、英文の意味を把握するために必要なものは2つあると考えています。それは、

  • 語彙
  • 文法と構文の知識

です。最初の語彙は、そのまんま単語や熟語のことです。そしてこれらは、辞書を引けばほとんどの場合解決します。問題は次の文法や構文の知識です。一番単純な例を出しましょう。

Tom loves Mary.

これを読んでいるみなさんは、おそらく何の問題もなく「トムはメアリーを愛している。」と日本語に訳せるはずです。でも、loveが「愛する」を意味する語だという語彙の知識だけでは、この文を訳すことは本来できません。日本語を見てみると、私たちは「は」と「を」という助詞をごく自然に補っています。一方、英語にはそのようなものがなく、Tom, loves, Maryという3つの単語を無機質に並べ立てているだけです。私たちがこの文を日本語に訳せるのは、「英語では文頭に主語が来て、その次に動詞が来る。動詞の後にもし名詞があったら、それは『~を』の意味になる」という構文の知識があるからです。この英文が「メアリーはトムを愛している。」という逆の意味にならないのは、そういう英語のルールがあるからです。*1そしてそのルールを知っているから、私たちはこの文を難なく日本語にすることができます。

もう一つ、別の例文を出してみます。

John gave Paul the book.

「ジョンはポールにその本をあげた。」ですね。実は、英語が苦手な高校生の中には、これを正しく訳せない子がいます。なぜ正しく訳せないのか?それはいわゆる「二重目的語構文(AにBを与える)」を知らないからです。彼らの頭の中では「give = 与える」という認識なので、「人を与えるってどういうこと?しかも名詞2個あるんだけど」と混乱してしまうのです。この構文の知識がしっかり頭に入っていないと、次の文が意味不明になります。

Tom gave the girl playing in the park the apple he bought at the store.

「トムは公園で遊んでいた少女に、店で買ったリンゴをあげた。」となります(本当にこんな文を発するネイティブがいるのかは知りませんが)。この文を正しく訳せる人の頭の中では、おおよそ次のようなことが起きています。

トムは何かをあげた。おっと、giveの後に人が来ている。ということは (1) 「AにBを与える」と訳すやつか。トムは少女に何かをあげた。何をあげたのか?と思ったら次にplayingが来ていてこれは名詞ではない。そうか、(2) このplayingは直前のthe girlを修飾しているやつだ。この修飾はたぶんparkで切れるだろう。公園で遊んでいる少女に何かをあげた。リンゴか。ん?これで文が終わりだと思ったら、また主語が出てきた。その後に動詞があるからこれは(3) 関係代名詞の省略だな。トムが店で買ったリンゴをあげたんだ。

あえて文法用語でいうなら、この英文の理解には、(1) 二重目的語構文、(2) 現在分詞の後置修飾、(3) 関係代名詞(目的格)which、という3つの知識が必要です。これらのうちどこか一つでも欠けていると、適当に訳さざるをえません。たとえ適当に訳したものが合っていたとしても、同じタイプの文が違う語彙で出てくると訳せなくなる可能性があります。

このように、日本人の英語学習者のように母語と体系が違う言語の文を正しく理解するためには、語彙だけではなく文法・構文の知識が必要になります*2このような知識は英語のネイティブが英文を読む時には動員されません。私たちが「トムはメアリーが好きだ」という文を理解する時に、「は」が主語で「が」はトムが好きな対象物を表す助詞であることを考えないのと同じです。このような知識をもって、「これがこうだからこういう訳になる/こういう訳にはならない」ということが説明できるように練習を重ねると、英文読解力は確実についてきます。実際、私は塾講師のバイトで高校生たちに英文の読み方を教えることが自分の理解が深まったと思っています。慣れてくると、上に書いたような思考を介さずに、難なく英文を訳せるようになってきます。

文法・構文の知識を身につけるには、文法書を読むのが一番手っ取り早いです。大学受験向けのもので構いません。『総合英語 Evergreen』や『ロイヤル英文法』(上級ですが)あたりが有名ですね。日本の英語教育は文法偏重だとよく批判されますが、文法をなめてはいけません。

英語の文法・構文の例

さて、ここからは高度な文法・構文の知識が求められる例文をいくつか紹介します。TOEFL/IELTSにもこのレベルの英文が時々出てきます。TOEFL/IELTSは和訳の試験ではないので全文逐語訳できる必要はまったくないですし、わからない文が直接問題に関わるところでなければラッキーですが、やはり意味がわかるに越したことはありません。

the 比較級 S' V', the 比較級 S V

The more number of visitors grows, the more local businesses profit.

有名な構文の一つです。「S'がV'すればするほど、ますますSがVする」と訳します。構文を知らなければまず訳せない文です。ちなみにこの文はTOEFLのListeningで実際に流れた文です。訳すと「訪問者の数が増えれば増えるほど、地域のビジネスはより多く儲かる」。最後のprofitは名詞の「利益」ではなく、自動詞の「利益を得る」です。このことも、実はこの構文を知っていればすぐに気付きます。profitが名詞だったら主節のVはどこへ?となりますからね。

The more stressful your work is, the more important it is to take a break.

この文にはちょっと捻りがあります。『ジーニアス英和大辞典』の例文を改変したものです。前半の「あなたの仕事がストレスの多いものになればなるほど」はいいのですが、問題は後半。比較級のあとにit isと来て、最後にto takeから始まる不定詞句がふわふわ浮いています。この it はいったい何でしょう?"your work"?そう考えると「あなたの仕事は休憩をとること」となって "more important" が浮いてしまいます。ここで行き詰った時に仮主語(形式主語)を思い出せれば完璧です。仮主語とは、"It is important to earn money." のように、本当の主語 "to earn money" が長すぎて頭でっかちだから "it" に置き換えて後に回すというやつです。*3中学校で習います。つまりこの文で何がますます重要になるのかと言えば、 "to take a break" (休憩すること)です。もともと "it is important to take a break." だったものがthe 比較級の構文でこうなったんですね。通しで訳すと「あなたの仕事がストレスの多いものになればなるほど、休憩をとることがますます重要になる。」となります。

Competition is usually the more severe the denser the population.

最後のこれは非常に難しい。これはTOEFLのReadingに出てきたもので、しかもこの意味がわからないと問題が解けないというものでした。

まず頭から読んでいくと、文の真ん中にthe moreが出てきたことで何かおかしいと気付きます。「the 比較級~」の文は「the 比較級」が文頭に来るのが原則です。ここで英文法の高度な知識を持っている人であれば、「the 比較級=~な方」を思い出すかもしれません。"Tom is the taller of the two boys."(トムは2人の少年のうち、背の高い方だ。)みたいな。しかし、この構文は2つのものを比べる時にしか使われないので、この文のように "of the two" を伴うことが多いです。したがって、この選択肢は消えます。続きを読むとまたthe 比較級が来ているので、やはりあの構文か、という見当がつきます。とはいえ順番がどう考えてもおかしい。これはかなり変わり種でそうそう出てくるものではない(私も初めて見ました)のですが、the 比較級が文頭ではなく文中に入り込んでしまったパターンです。こうして語順が変わってしまうのは書き手の趣味もありますが、おそらくこの場合は usually があったからだと思います。ふつうの語順で書くと"The more severe competition is usually,"と副詞で終わることになり座りが悪いからです。*4

さて、ここをクリアしてもまだ問題が残っています。後半に動詞がない!どこいった!……省略です。英語は省エネ言語なので言わなくてもわかることはわざわざ言いません。「the populationがdenser(  )」と書いてあったら、まぁほとんどの人が( )に「になる」を入れるでしょう。前半で "is" が出てきたから省略しちゃったんですね。なんとまぁ身勝手な。結局通しで訳すと、「競争が激しくなればなるほど、個体数が増えてくる。」となります(これは生物の自然淘汰の話でした)。

主節の倒置

Only after an operation will he be able to walk again.

次は構文というより文法の知識が必要な英文です。この文自体は『ジーニアス英和大辞典』からとったものですが、同じタイプの文はTOEFL/IELTSでも見かけます。さらっと読むと「ん???」となると思います。「手術の後に……お?手術が……?え?」みたいな。

実はこれ、倒置が起きている文です。倒置とは、SとVの位置をひっくり返すことを言い、英語の場合疑問文と同じ見た目になります。この文の主語は、真ん中の "he" で、動詞は "will be able to walk" です。したがって、"Only after an operation // will he be able to walk again." というふうに切れます。自然に訳すと、「手術が終わってからでないと、彼は歩けるようにはならないだろう。」となります。

なぜ倒置が起きているのか?それは、"after an operation" が文頭に出てきているからです。「前置詞+名詞」のセット(前置詞句)は普通文の最後に置かれますが、これが文頭にしゃしゃり出てくると、後ろの文が倒置になることがよくあります(絶対ではない)。ふつうなら "He will be able to walk again only after an operation." というところです。倒置が起きていることに気付かないと、永遠にこの英文の謎は解けません。

まとめ

英文を読むという作業は、無数にある意味の可能性を一つずつ論理的に消去していく作業だと私は思います。そしてそのためには、知識が必要です。今までなんとなくで英文を読んでいた方も、この機会に読み方を見直してみてはいかがでしょうか。

*1:ちなみにそういう訳し方になる言語もあります。基本語順がSVOではなくOVSの言語で、数は非常に少ないですが、南米の言語に多くあります。

*2:英語と言語構造が比較的近いたとえばフランス語の話者であれば、いちいちこんなことを覚えなくてもそのまま理解できます。"Tom loves Mary." という英文をフランス語話者が見た時、"Tom aime Mary." と一語置き換えれば済みます。

*3:英語は主語が長くなるのを嫌う言語で、この点は日本語と対照的です。日本語では「真面目に働いてお金を稼ぎ、家族を養うことは重要だ」と問題なく言えます。

*4:"Usually the more severe ..."とすることもできますが、そうしなかったのはたぶん筆者の趣味です。