大学院留学断念記

人文系のアメリカ大学院留学を諦めました。

【連載】私の研究について④

気まぐれで始めた連載記事、「私の研究について」もこれが最後です。過去の記事は、右の「最新記事」から追ってくださいね。

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【目次】

最近の言語相対論

1980年代以降、再び勢いを取り戻した言語相対論の議論ですが、2000年代になるとさらに研究の幅が広がりました。それまでは連載第2回で紹介した色の実験や、連載第3回で紹介した方向感覚の実験など決まったテーマのものしかなかったのですが、最近はどんどん細かいところにまで進出しています。文を作る時の動詞にどんな情報を組み込むかという違いに注目したものや、「時間が下る」といった比喩表現に注目したものなど、ありとあらゆる言語間の差が研究対象になりえるため、良く言えばどこまでも掘り下げられるし、悪く言えばキリがない研究です。

言語相対論が言語と人間の思考の関係に関する主張である以上、様々な分野の研究者がいろいろな角度から実験を行っています。言語学や心理学のみならず、認知科学文化人類学(特に先住民言語など)をも巻き込む学際的な研究が進むことが期待されます。

一方で、言語相対論に対して否定的な主張を展開する研究者も少なくありません。彼らは「実験をやってみて言語間に差が出なかったから、言語相対論はウソ」というのではなく、のっけから否定するスタンスで「どういう結果が出ようと言語相対論はデタラメ」という感じなので、相対論者と反相対論者の溝が埋まることはないんじゃないかと思います。結局、実験をして理論の正当性を議論しているのはいつも相対論者で、反対派は実験をする以前のところからグチグチ文句を言っている印象があります。これは相対論に限った話ではないですが、「実験なんて普段の環境と違うところでやってるんだし、それが本当に人間の普段の思考を表していると言えるのか」という反論は常にあります。

最近の研究に対する私の考え

私は基本的に言語相対論を支持するスタンスですが、一部の強硬派のように「言語によって我々の思考が作られているんだ!」とかいう主張をする気は毛頭ありません。異なる言語の話者の間で実験をやって差が出なければ、それは言語相対論の証明にはならないですし、それを無理やり捻じ曲げて言語相対論に結びつけようとするのは危険だと思います。ここでは、言語相対論の研究をする一院生として、今後の展望を二点書きます。

分野の垣根を超えた交流の促進

上に書いたように、言語学のみならず関連する様々な分野による学際的な研究に発展していくことが第一に望まれます。すでにいろいろなところで指摘されている問題ですが、今のところは言語に詳しい言語学者言語学の知見を中心にやり、認識に詳しい心理学者が統制された方法で実験をやり、分野間の交流が乏しいです。そうすると、心理学実験の手法にあまり詳しくない言語学者が実験をすると、なんだかヘンテコなデザインの実験をやり始めたり、あるいは言語学に詳しくない心理学者が実験をすると、今度は言語相対論の前提となる言語の分析に怪しいところがあったり、ということになります。言語学者と心理学者が互いに協力し共同研究を行えば、さらに良い研究が出てくるのではないかと思います。私は大学院に入ってから心理学をかじり始めたし、言語学もほぼ独学で十分な知識を身につけているとは言い難いので、すごく中途半端な人間です。修士を出るまでに自分の立ち位置を見つけたいです。

言語の分析をしっかりやろう

これは言語学の立場から見たコメントですが、先行研究の実験には対象となる言語の分析が不十分なまま行われているものが多々あります。通常、言語相対論の実験を行う時は実験のはじまりから終わりまで被験者の母語を使って行うのですが、その実験の時に使う問題の指示文や課題文に不自然な表現があったりします。まるでGoogle翻訳みたいな感じです。日本語ではないですが、中国語と英語の話者を比較した過去の実験で、中国語の課題文が不自然すぎて、自然な文に直したら結果が変わって論破された、という研究もあるくらいです。実験をやるならその前に言語の分析をしっかりとやるべきです。

連載のまとめ

全4回にわたって、私の研究関心と過去の研究を紹介してきました。改めて自分の研究内容を誰にでもわかるように言葉で伝えるのは難しいと思いました。この連載を通して言語相対論に少しでも持っていただけたら嬉しいです。手軽に読める日本語の本としては、

  • 今井むつみ(2010)『ことばと思考』 東京:講談社

があります。彼女は心理学の研究者なので、心理学の立場から言語相対論を知りたいという人にオススメです。また、子どもの発達についても研究されている方なので、それにまつわる研究もたくさん紹介しています。

英語だと、2018年のTED Talk認知科学者のLera Boroditskyという人が約10分で言語相対論の研究を総ざらいしています。日本語字幕もありますので、こちらもぜひ。

www.ted.com