人文系の大学院留学

…を目指して断念した人のつぶやき。

言語学流英単語の覚え方

最初の自己紹介の記事で、私は言語学と心理学の中間みたいなことをやっているとお伝えしました。具体的に何を研究しているかは別の機会に回すとして、とにかく言語学とはもう4年以上の付き合いです。学部の3年まではいちおう文化人類学を専攻していましたが、その時も新しい言語を学ぶのが好きだったこと、昔から日本の方言って面白いなぁと思っていたことから、言語学の講義には積極的に出席していました。というわけで、この記事では私がGREのVerbalに出てくる激ムズ英単語を覚える過程で身につけた、言語学流の英単語の覚え方をシェアします。

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【目次】

 

フランス語を知っていると英語学習に有利!

英語に限らず、どの外国語を学ぶにしても最後まで苦労するのが語彙の習得です。ただし、どんなに頑張ってもこの世に存在する英単語とその意味すべてを頭にインプットすることは無理。それはおそらく母語の日本語だって難しいと思います。私だって「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」は読めるけど、意味は知りません。だったらせめて未知の英単語が出てきた時にスペルから意味を推測できるようになればいい。というわけで、私は英単語の成り立ちや語源を注意深く観察するようにしています。

これは私がGREの単語帳を使い始めてから気付いたことですが、ハイレベルな英単語を覚える時、フランス語を知っているとかなり有利にはたらきます。これには英語の歴史と深い関係があるので、ここで手短に説明します。

5世紀ごろから始まる長い英語の歴史を紐解いていくと、現代の英語の語彙に最も影響を与えたといえるできごとが1066年に起こります。世界史を勉強したことのある人はピンとくる年号でしょうか?そう、ノルマン・コンクェスト(Norman Conquest)です。これは、一言でいうと「フランスがイギリスを征服した事件」です。これにより今のイギリスはフランスの領地になり、フランス人の王が支配し、フランス語が話されるようになりました。といっても、フランス語を話しているのは支配階級だけです。一般市民はこれまでどおり英語を話し続けました。この状態は1337年から始まるフランスとの百年戦争まで続き、戦争後に英語が再び主要言語になるまでの約200年間に、ゲルマン系の英語にフランス語の語彙が大量に流入しました

このような経緯があり、今でも英語にはフランス語由来の単語が大量に残っています。特にGREのVerbalに出てくるようなハイレベルな語彙(≒支配階級が使うような高尚な語彙)にはフランス語の影響が強く見られます。そして、そのフランス語の祖先にはラテン語がいて、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語などを勉強したことがある人も、英単語を覚えるのにそれらの言語の知識を活かせる可能性があります。

たとえば、英語には"amelioration"という語がありますが、これはフランス語をやっている人だと意味が推測できるはずです。フランス語には"améliorer"という動詞があり、それの名詞形が"amélioration"です。この名詞を直輸入した結果が英語の"amelioration"。意味は「改善」、"improvement"よりもお堅い語です。ちなみにこの"amelioration"から動詞の"ameliorate"ができました。*1日常会話で使う"improve"もフランス語の影響がゼロではないですが、よりレベルの高い"ameliorate"はフランス語ほぼそのままです。

また、英語にはフランス語のおじいちゃんくらいにあたるラテン語から、フランス語をすっ飛ばして直接入ってきた語も結構あります。英語がフランス語とラテン語からどれくらい影響を受けているかを示すため、ためしに私が使っているGREの単語帳の最初の見開き1ページに載っていた単語の語源を調べた結果を載せます。

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全15個のうち、古仏語という現代フランス語の前に存在していた古い形のフランス語由来のものが6個、ラテン語由来が8個という結果でした。

このような英単語の語源を調べる時は、Online Etymology Dictionaryが便利です。

フランス語なんて知らない、という人へ

ドイツ語民に捧げるメッセージ

第二外国語を真面目に勉強する人は、文系にも多くいません。理系はとりあえずドイツ語を選んで格変化の多さに撃沈するというオチですよね。知ってます。私もドイツ語は趣味でやりました。ドイツ語ってゲルマン系で英語と同じグループのはずなのに、全然似てないんですよね。これを読んでいる人の中にドイツ語を真面目に勉強したことがある人がいるかもしれないので一応補足しておくと、フランス語が大量に流入してくる前から存在していた英単語は比較的ドイツ語に近いです。理由はわかりませんが、たとえば現代英語でwから始まる単語はゲルマン系の古英語由来のものが多いです。

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直接的な語源は古英語ですが、その古英語もさかのぼれば周辺のゲルマン系言語の影響を色濃く受けています。英語の"water"はドイツ語で"Wasser", "week"は"Woche"で似てますね。私はドイツ語をそこまでちゃんと勉強していないのでわかりませんが、探せばドイツ語の超基礎語彙が英語で似たようなスペルで出てくるかもしれません。

英語オンリーの皆様へ

最後になりましたが、ロマンス系言語もドイツ語も知らん!!!という方も含めた全英語学習者向けに、語の成り立ちを調べることをオススメします。これまで英語を勉強してきた人は、なんとなく頭にdisが付くと否定になるな、とか、in/im/irが付くと反義語になるな、ということを一度は実感しているかと思います。regularとirregularとか、honestとdishonestとか。でもこういう「意味を反対にする」とか一見ラクな立ち回りをしている接頭辞はしょっちゅう裏切ります。どういうことかというと、disが頭に付いても全然否定の意味にならないものとか結構あります。たとえば、guise(変装)にdisが付いたdisguiseは「変装する」。変わってないじゃん!!!だから、こういう安易な接頭辞や接尾辞を覚えるのではなくて、もっと意味のあるものを覚えましょう。

  • hydr-:水に関連する 例)hydrate, hydrophobia
  • iso-:同じ 例)isomorphic, isometric
  • bi-:2つ 例)bilingual, bisexual
  • mal-:悪い 例)malcontent, maledroit
  • medi-:中央 例)medieval, median
  • omni-:全部 例)omnipresent, omnipotent
  • -phobia:嫌い 例)xenophobia

などなど。単語帳には載っていないかもしれませんが、辞書にはこういう語の成り立ちがたいてい載っているので見てみてください。ちなみにこのような接頭辞/接尾辞のほとんどがラテン語由来なので、ここでもロマンス系言語を学習した人は有利です。

まとめ

所詮GREのVerbalに出てくる単語を全部覚えるなんて無理。ましてや当日は緊張もするだろうから、ふだん覚えていた単語を忘れたりすることもあるでしょう。そんな時でも、語のスペルを見てポジティブな意味かネガティブな意味かがわかるとだいぶ違います。同志の皆さん、頑張りましょう。

*1:このような動詞から名詞ができる普通のプロセスとは逆の語のでき方を「逆成(back-formation)」といいます。